ドアノブに手をかけた。
刹那、痛みと共に衝撃が走った。
身体中の電荷が、指先の末梢にまで到達して、一点に集約された気がした。
『つまるところ記憶や感情というのは、ただの電気的な信号に過ぎないのだろうか?』
ただの静電気は、私に混乱を催させた。手にかけたドアノブに、私を構成するあらゆるものが流れ込んだように思えた。
ノブを回すという、自動的な操作が妙に重く感じる。
手のひらを広げる。握る。指先に力を込める。腕を捻る。
一挙手一投足がスローモーションのように感じられた。
世界が静止して、今、この簡単な動作のために捧げられている。
『時間という概念は所詮人間の被造物に過ぎず、私はただ"今ここ"に囚われているだけなのではないか?』
気がつくとノブは捻られていた。
全ては、気の所為であった。
ドアを軽く押して、外に出ようとした。
そこには、外の世界が待っているはずである。
『自由意志は、被造物たる我々に与えられているのだろうか?』
ドアは開いた。
雨が降りしきって、私の髪を瞬く間に濡らした。
そうしてあらゆる疑念も、悔恨も、何もかもが洗い流されて、何処とも知れず、雨粒と共に消えていった。
心拍の音だけが世界に響き渡って、一面を満たす。
そんな風にして、また時が流れる。